好きになれとは言ってない
「兄貴の魅力って、なに?」

 は? と振り向く。

「遥ちゃんはさー。
 今まで好きな人とか居なかったわけでしょ?

 それがなんで、兄貴をいいと思うようになったの?」

「いや……いいとか思ってるわけではないんですが」
と言ったあとで、これでは、悪い方だと言っているようだ、と思い、慌てて弁解ついでに本心を吐露してしまう。

「い、いや、いい方ですよ。

 その、私が課長をいいなと思うのは。

 ……そうですね。
 本の好みが合いそうだったりとか。

 電車が一緒だったりとか」
と言うと、電車が一緒だったりは、いい方と関係ないんじゃない? という顔をされる。

 だが、電車で相席したことがそもそもの始まりなので、自分としては、航を語るに外せない一点だ。

「酔うと性格変わる癖に、すぐに戻ったり。

 翌日は知らんぷりして、それをなかったことにしようとしてみたり」

「いや、そこだけ聞くと、結構ロクでもない男みたいなんだけど……」
と言われたが、遥は目の前の道を見つめて言った。
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