好きになれとは言ってない
 ……おい、と思っていると、
「じゃあ、なんで、あの人、あんたがいいのよ」
と言い出した。

「え? 真尋さん?

 真尋さんは、別に私がいいってわけじゃ。
 乗せて帰ってくれただけで」
と言うと、姉は既に閉まっている扉を振り返りながら、

「そう?
 あんたに気があるように見えたんだけど」
と言ったあとで、

「でも、あんたはあの、無骨な軍人さんみたいなお兄さんの方が好きなのよね」
と言ってくる。

 ……いけませんか?

 無骨な軍人さんみたいじゃ、いけませんか? と思ったのだが、とりあえず、喧嘩を売らずに訊いてみた。

「おねえちゃんは、結構モテたじゃん」

「なに過去形にしてんのよ、あんた」

 いや、既に人妻なのだから、今更、モテてもトラブルの元だろうと思ったのだが、まあ、女として、そういうものでもないのだろう。

「なんでお義兄さんにしたの?」
と訊くと、姉は、うーん、と、

「話してて、一番しっくり来たからかな」
と意外にまともなことを言ってくる。
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