好きになれとは言ってない
 



 真尋は家に着いたあと、母親に電話していた。

 帰ったらかけろと言われていたからだ。

 子どもか、と言ったのだが、
『無事に帰るか、心配じゃない』
と言われた。

 いや、普段は滅多に会わないのに。

 会わないときに、なにしてても、気にしないくせにな、と思いながらも、かけてみた。

 恐らく別に心配していることがあるのだろうから。

 寝てて父親が出てくれればいいのにと思ったのだが、やはり、母親が出た。

『着いたの。
 そうよかった』
と言ったあとで、案の定、

『あんた、なんで先に私を送ってったの』
と言ってくる。

「……近いから」

 遠いでしょうっ!? と電話の向こうで絶叫している。

『まあ、あのぼんやりした遥さんは、遠回りになってても気づきそうにないし、気づいても、年長の私の方を先に送ろうと思ったと思うでしょうね』
と言ってくる。
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