好きになれとは言ってない
『大丈夫?
 ちゃんと送ったんでしょうね』
と信用がないのか、更に訊いてきた。

「家からかけてるだろ」

 番号は向こうに表示されているはずだ。

 疑いを持たれないために、わざわざ固定電話でかけたのだ。

 だが、母親は、
『わかんないじゃない。
 今、そこに連れ込まれてるかもしれないじゃない。

 遥ちゃんっ。
 聞こえるっ?

 そこに居るのなら、返事をしてーっ』
と叫び始める。

「居ないってっ!

 っていうか、無理やり連れ込むほど、僕、不自由してないからっ」
と言うと、そうよね、と言われる。

『あんたは、ぼんやりしている航と違ってモテるんだから。
 わざわざおにいちゃんの彼女に手を出す必要なんてないわよね?』

 そう確認のように言われた。

 いや、兄貴はモテてないんじゃなくて、気づいてないだけだけど。

 まあ、気づいていても、なにも気にしてなさそうな人だが。

 あの眼光にめげずに言い寄る女が居ても、うるさい、とか言いそうだし。
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