好きになれとは言ってない
『遥さんを逃したら、航に次はないわ。
 航が女の子に心を動されるなんて、滅多にないことなんだからね』

 だから、わかってるわねっ、と言い聞かすように言われる。

「大丈夫だよ、じゃあ」
と言って電話を切った。

 母さん、なにも心配することなんてないよ。

 店に来てごらんよ。

 いつも幼児からおばあちゃんまで女性でいっぱいだよ。

 あんな手のかかるうえに、揉め事の起きそうな相手を選ぶ必要なんて、俺にはないから――。

 だから、心配しないで。
 ちょっといいなと思ってるだけだから。

 でも、考えてみれば、理不尽な話だな、と思う。

 お前はモテるんだから、諦めろとか。

 誰だって、好きになるのは一人なのに。

 ……それにしても、といきなり、遥の名を呼び、逃げてーっというように叫び出した母親を思い返して笑う。

 ぱっと見も、性格も正反対なのだが。

 ああいう、いきなりなにをするのかわからないところとか。
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