好きになれとは言ってない
電車は今日も混んでいたので、いまいち話せなかった。
駅から一緒に歩きながら、そういえば、こうして並んで歩いたりして、課長にご迷惑ではないのでしょうか、と遥は思っていた。
そのせいか、なんとなく沈黙してしまったので、気まずく、慌てて話題を探して、口を開いた。
「あっ、あのっ。
そういえば、昨日、お義母さまにお会いしました」
と言うと、聞いた、と言われる。
「なにか余計なことを言ったかもしれないが、気にしないでくれ」
と言われたとき、気にしないでくれ、という言葉だけが、何故か、遥の頭に残った。
気にしてないでくれって、やっぱり、あれのことかな? と思ってしまったからだろう。
『付き合って、結婚なさい。
遥さんっ』
そうですか。
課長的には、あれはなかったことにして欲しいのですね。
そう思ってしまってからは、どうやって会社まで着いたのか、自分がなにをしゃべっていたのか思い出せないくらい、精神的にフラついてた。
廊下で航と別れるときに、
「大丈夫か?」
と問われるくらいに。
……まどかさん、脱走して飛んできてくれないだろうかな、と思いながら、遥は廊下の窓を見た。