好きになれとは言ってない
「昨日、プロポーズされました」
いつものようにお茶を沸かしたあと、他の人が給湯室を去ったところで、遥は亜紀に言った。
「なんなの? その急展開っ。
付き合ってもないのに、いきなり?
さすが出来る男は違うわねっ」
と何故か盛り上がる亜紀に、
「いや、課長じゃないんです」
と言うと、亜紀は眉をひそめ、
「じゃあ、誰よ」
とドアを閉めながら言ってくる。
いや、そこ閉めると、また注意されますよ、と見ながら、
「課長のお母様です」
と言った。
「……お母さん?」
「すごい豪快な方で、貴女を逃したら、次はなさそうだから、貴女、航と結婚しなさい、と言われました」
千佐子の言葉を伝えているだけだとわかっていて、自分の口から、航という名前を言うだけで、緊張してしまった。
「すごい人ね。
さすが、課長のお母さんね。
なんというか、合理的というか。
一直線というか」
確かに、仕事中の課長のようだ。