好きになれとは言ってない
 



 ……給湯室が人事の前だということをわかっているのだろうかな、こいつらは、と自分の席で仕事をしていた航は思っていた。

「あっ。
 阿呆な相談じゃないですよーっ。

 のろけてもいませんっ」

「なによーっ。
 一見、相談だけど、よく考えたら、単にのろけてるだけなんじゃないの、あんた?」

 ……丸聞こえだ。

 前の席の部下が。

 この男は本当に自分より年下なので、素直に部下と呼べる後輩なのだが。

 ノートパソコンを打ちながら、俯き笑っている。

「なにのろけてるんですかね?」
とこちらに向かい、小声で訊いてきた。

 知るか、と赤くなる。

 しばらく静かになっていて、聞こえなかったが、最後に遥の絶叫が聞こえた。

「とりあえず、まどかさんを手に入れなければっ」

「ま、まどかさんって誰ですか?」
と何故か手に汗握って、部下が訊いてきた。

 ……インコだよ。






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