好きになれとは言ってない
社食に行く途中の遥に出会った。
「まどか捕獲計画はどうした」
と遥に言うと、ああっ、なんで知ってるんですかっ、という顔をする。
「……声、デカ過ぎだ」
「こ、今度からロッカーで話すことにします」
と遥は言うが、ロッカーは部署と直結している。
やめろ、と思いながら、エレベーターに乗ると、かなりいつもの調子を取り戻している遥が言ってきた。
「そういえば、新聞で見たんですけど、リストラ宣告した人が刺されかけたそうですよ」
「俺に報告してくるな」
などと物騒な話に花が咲くエレベーターの中は、社食に行く人や外に出る人でいっぱいだった。
「大丈夫ですかね」
と心配そうに遥は小声で訊いてくる。
「報復で刺されたり、リストラが終わったら、口封じに殺されたりしませんかね?」
「なにを封じるんだ。
っていうか、その場合、封じるのは、あそこに居る人か?」
と航は、扉の一番前に居る人の良さそうな顔の人事部長を手で示した。
苦笑いして聞いている。