好きになれとは言ってない
 




「兄貴は順調だね~」

 二人きりになった車内で、真尋がそんなことを言い出す。

「その年で人事課長で、きちんとした家の娘さんも捕まえて」

「遥は関係ないぞ」
と言うと、

「関係ないのに呼び捨て?」
と真尋は笑う。

「っていうか、気に入ってるのに、なんで連れてきたの?
 僕の悪い癖、知ってるでしょ?」

 一度は通る道だからだ、と弟の顔を横目に見ながら航は思っていた。

 同じ顔で女の扱いに長けている真尋。
 身内なので、いつかは会わざるをえない。

 いやいや。
 だからって、古賀遥は関係ないのだが。

「あれはただの通りすがりの古賀遥だ」
と言うと、

「またまたー。
 さっき、何度も彼女っていうのを否定するチャンスがあったのに、しなかったくせに~」
と言い出す。

「無意識のうちにやってんの?」
と笑われた。
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