好きになれとは言ってない
「あっ、課長っ。
 白い猫がっ」
と目の前を、あの真尋の店の近くにいつも居るのと似た猫が横切っていったので、報告すると、航は何故か、

『……不吉だな』
と言う。

 なんでだ、と思っているうちに、家の明かりが見えてきた。

「課長、家が見えましたっ」
と言うと、

『油断するな!
 玄関を入って、鍵を閉め、家族の存在を確認するまで、電話は切るな』
と強い口調で言ってくる。

 いや……何処の戦地ですか、此処は。

 やはり、自衛隊に入りたいのか?
と思いながら、ただいまーと帰ると、ちょうど出て来た母親が、

「あら、今日はひとり?」
と訊いてきた。

「課長も一緒。
 あっ、電話だけど」
と笑ったあとで、

「課長っ、無事にお母さんに遭遇しました」
と言って、遭遇ってなんだ? と言われる。

 いや、すみません。
 頭の中では、もう迷彩服を着て、ジャングルに居ました。
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