好きになれとは言ってない
 いや、課長のせいですよ……と思いながら、
「今日はありがとうございました。
 おやすみなさい」
と言うと、

『……おやすみ』
と言って電話は切れた。

 母親が居るので、笑うまいと思っているのだが、顔が、にまにましてしまう。

 そして、母親は、そんな自分をずっと眺めている。

「お母さん、なんでそこにずっと居るのよ」
と赤くなって言うと、

「いや、最近、太っちゃってね」
と唐突に言い出した。

 は?

「おねえちゃんのとき着た留袖は入らないんじゃないかと思うのよ」

「留袖?」

「いやね。
 あんたの結婚式で着るのよ。

 ああ、教会なら、服でもいいわよね」
と言い出す。

 だ、誰が結婚するんですか……と思いながら、貴女は今、そんなこと考えて、ぼうっとしてたんですのか。

 私は実は母親似なのでしょうか、と思っていた。
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