好きになれとは言ってない
課長を待つ、と言って、みなに無駄に冷やかされながら、遥は、真尋の言いつけ通り、店に残る。
実際には、課長は来ないのにむなしいな、と思いながら、カウンターの隅に座っていた。
最後の客が帰ったあとで、真尋が、
「今日は送ってくよ」
と強い口調で言ってくる。
「え、でも……」
申し訳ない、という言葉を最後まで言わせず、真尋は言った。
「電車で帰るのに、着ぐるみ、邪魔だろうから」
いや、こんな小さな箱なんですが、と思ったが、その押しの強い口調に、
「あ、ありがとうございます」
と頭を下げていた。
真尋が店内を片付け始めたので、
「あ、戸締りとか手伝いますよ」
と立ち上がる。