好きになれとは言ってない
 




 送ってくれる道中、珍しく真尋は沈黙していた。

 どうしたんだろうなあ、と思いながら、遥は、膝に着ぐるみの箱と鞄をのせ、もう見慣れてきた気がする真尋の店から家までの景色をぼんやり眺めていた。

 此処を曲がったら、もう家だ、という最後の交差点で信号が赤になった。

「遥ちゃん」

 ハンドルを握り、前を向いたまま、真尋が呼びかけてくる。

「俺と結婚して」

 ……今、なにか聞こえたような、と思いながら、遥が沈黙していると、
「俺と結婚して」
と真尋は繰り返す。

 遥は、なんとなく後ろを振り返ってみた。

 真尋は遥の行動が読めていたように、こちらを見もせず言ってきた。

「いや、後ろ、誰も居ないから。
 遥ちゃんに言ってるんだよ」

 信号が青に変わり、それを見て、ふと思いついた遥が口を開く前に、真尋は言う。

「赤になったら、プロポーズする方針に変えたわけじゃないから」

 俺と結婚して、遥ちゃん、ともう一度、真尋は言ってきた。





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