好きになれとは言ってない
「もう読んだのか?」
と航に言われた遥は、にんまり笑った。
昨日あれから、半身浴をしながら頑張って読んだのだ。
のぼせて、ひっくり返りそうになったことは内緒だが。
「あ、課長。
そこ空きましたよ」
と言うと、リストラ大魔王じゃなかったのか、という目で航が見る。
「お前、座れ」
「あ、ご老人が居ました」
と言いながら、ほっとしていた。
航が離れて座っても、自分が座れと言われても、なんだか嫌だな、と思っていたから。
なんでだろう。
大魔王様と朝一緒になるなんて、レアなことだからかな?
きっとそうだ。
でも、そうか。
大魔王様の思う落ち着いた美人って、岡崎さんなのか。
自分が将来年をとるなら、あんな風にとりたいなと思わせる品のいいおばさまだ。
そのまま、大魔王様と話しながら、会社に向かった。