好きになれとは言ってない
 



 職場に着いた遥は、朝からお賽銭を数えていた。

 会社の管理している土地にある観音様のお賽銭を数えるのも総務の仕事だ。

 八枚、九枚、十枚……と数えていると、横から余計な声が混ざってくる。

「……一枚、二枚、……三枚」

 ん? 今、何枚だ?

「一枚足りない~」
と言ったその声に、

「もうっ。
 邪魔しないでくださいっ」
と振り返ると、大葉が立っていた。

「あっ、すみませんっ。
 大葉さんでしたかっ。

 って、もうっ。
 何枚数えたか、わからなくなっちゃったじゃないですか~っ」

 ははは、と笑った大葉は、
「ごめんごめん。
 人が数数えてると、やりたくならない?」
と言う。

「ところで、噂のコンパは、いつなの?
 楽しみにしてるからね、遥ちゃん」
と肩を叩かれた。

 はあ、と曖昧な返事をしているうちに、大葉は、部長にハンコをもらって出て行ってしまう。

 すると、後ろの席の亜紀先輩が、すうっと椅子を滑らせてやってきた。
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