好きになれとは言ってない
 っていうか、姉。
 航さんってなんだ?

 ……私もまだ、一度しか呼んだことがないのにっ。

 家族はみんな、
「航さん」
「航さん」
「航くん」

 隆弘さんも、航さんと呼んでいるし、翔子など、
「航」
と呼ぶこともある。

 ……どうしよう、幼児に嫉妬してしまいそうだ、と遥は苦悩する。

 また、航が意外な子供好きらしく、翔子を抱いて庭を歩いたりして、これまた嫉妬だ。

 私も抱いてください。

 いやいや、私が言うと、意味が違って聞こえるな。

 でも、この人、いいパパになりそうだな、とちょっと思ってしまった。

 そういえば、娘がどうとか言ってたし。

 女の子を抱っこした課長と私が暮らす家、と遥は妄想する。

 日当たりのいいリビングの窓辺には鳥かご。

 ん? 鳥かご?

『もうーっ。
 早くしなさいよーっ。
 貴方っていつもそうなんだからっ。

 ケーッ』
というまどかさんの口癖を思い出す。

 ……そうそう。
 鳥は飼わないんだった。
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