好きになれとは言ってない
 他の人なら、亜紀さんのことだ。
 もうちょっと堂々と言うに違いない、と思っていたからだ。

「そうよっ。
 なんか悪いっ!?」
と亜紀は逆ギレするようにテーブルを叩いて言い、みんなに、

「えーっ。
 往生際悪いわねー、亜紀」

「また小宮さんですかー?」

「あの人、すぐ浮気しますよ」
と言われていた。

「うるさいわね、人ってのは、付き合ってみなきゃわからないし、結婚してみなきゃわからないものなのよっ。

 ……たぶん」

 最後、亜紀の言葉は小さくなっていたが、いや、それは確かにそうだろう、と遥は思っていた。

 大魔王様だって、最初は電車で横に座るのも恐ろしい人だと思っていたのに。

 ……まさか、恋愛に関しては、あんなに小心者だったとは、と航に殴られそうなことを思う。
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