好きになれとは言ってない
 けんちゃんは翔子の彼氏だ。

 いつも、お手手つないで遊んでいるらしい。

 ……私も大魔王様とお手手などつないでみたいものだ、と思いながら、自分より先に彼氏の出来た幼稚園児にそう訊いてみた。

 すると、翔子は、
「もう用意してあるよ」
と当然のように言う。

「えっ、そうなの?」

「だって、作るの時間かかるもん。
 幼稚園の木の裏で乾かさないといけないから」

 ……泥だんごだな。

 恐らく、きんきん泥で作った泥だんごだ。

 きんきん泥という集めるのに手間のかかる泥で作った泥だんごは、幼稚園では希少価値があって、珍重される。

 今でも似たようなことやってんだなあ、と感慨深く思い出す。

 翔子は昔、自分が行っていた幼稚園に通っているのだ。

「……じゃあ、私もあげてみようかな、泥だんご」

 別にそれはそれで戸惑いながらも喜んでくれそうだ。

 基本、やさしいからな、と思ったとき、翔子が言った。
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