好きになれとは言ってない
 




 遥の父親を前にすると、やはり、緊張する、と航は思っていた。

 遥と二人きりになったときほどではないが、緊張する。

 もちろん、酒を断るなんて出来るはずもなく、コタツに腰を下ろし、酒を酌み交わしていると、唐突に遥の父が言い出した。

 南条という家の娘の話だ。
 どうやら、結婚前に妊娠してしまったらしい。

「私は、結婚前にそういうのはどうかと思うんだよね。

 やっぱり、娘には、結婚するまでは清らかであって欲しいっていうか」

 グラスが手から滑りそうになる。

「お父さん、いまどき、そういうの流行らないから」

「流行るとか流行らないとかそういうんじゃないだろう」
という父娘の会話を聞きながら、ずっと固まっていた。

 これは……俺は父親に牽制されているのだろうか。

 結婚するまで手は出すなよ、と。

 父親がトイレに立ったとき、テーブルの方から遥の姉が言ってきた。

「お父さんと仲良すぎるのも問題ね、航さん。

 これ以上は味方できないなあ。
 実家に入り浸るなって言われちゃうから」
< 427 / 479 >

この作品をシェア

pagetop