好きになれとは言ってない
遥の父親を前にすると、やはり、緊張する、と航は思っていた。
遥と二人きりになったときほどではないが、緊張する。
もちろん、酒を断るなんて出来るはずもなく、コタツに腰を下ろし、酒を酌み交わしていると、唐突に遥の父が言い出した。
南条という家の娘の話だ。
どうやら、結婚前に妊娠してしまったらしい。
「私は、結婚前にそういうのはどうかと思うんだよね。
やっぱり、娘には、結婚するまでは清らかであって欲しいっていうか」
グラスが手から滑りそうになる。
「お父さん、いまどき、そういうの流行らないから」
「流行るとか流行らないとかそういうんじゃないだろう」
という父娘の会話を聞きながら、ずっと固まっていた。
これは……俺は父親に牽制されているのだろうか。
結婚するまで手は出すなよ、と。
父親がトイレに立ったとき、テーブルの方から遥の姉が言ってきた。
「お父さんと仲良すぎるのも問題ね、航さん。
これ以上は味方できないなあ。
実家に入り浸るなって言われちゃうから」