好きになれとは言ってない
「すみません。
 あの、お名前と住所と電話番号を」

 もし、と旅のお方に話しかけるように言ってしまうと、男は戻ってきた。

「なにそれ。

 街頭アンケート?
 ナンパ?

 っていうか、古賀遥、俺の名前知らないの?」

 ショック、と額を指で弾かれる。

 そこのリストラ課長のコンパ係とか言うから、こっちの名前は知らないのかと思っていた。

 私だけ知らないとか無礼だったな、と思っていると、まさにそのまま口に出された。

「古賀遥。
 総務のくせに、社員の名前、知らないの?」

 へー、と言われてしまう。

 いや、幾ら総務でも、全社員は把握できないんですけどね、と思っていると、
「この俺を知らないとは。
 さすがリストラ大魔王の彼女だね」
と言われた。

「い、いや、待ってください。

 私は大魔王様……じゃなかった。

 新海課長の彼女じゃないですしっ」
と訴えると、

「じゃあ、なんで、あんな上から目線で使われて、コンパの世話とか頼まれてんの?」
と男はもっともなことを言ってくる。
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