好きになれとは言ってない
「へー、お父さん、そんなこと課長に言ったの?」
お昼休み、いつもの小会議室で、雑誌を読みながら、みんな、それぞれのクリスマスの過ごし方について話していた。
そんな中、昨日の父と航の会話を聞いて、そう亜紀が言ってきた。
「私は、課長と居られるだけでいいので、別にいいんですが」
「そりゃ、あんたはそうかもしれないけどさ。
浮気されない? それ」
と言われて珈琲カップを取り落としそうになる。
「いまどき、そんな堅い女、流行んないわよ」
「いえあの、お堅いのは私ではなく、父なのですが」
「それに従ってるんなら、同じことでしょうよ。
ところで、クリスマスプレゼントはもう決まったの?」
言いたいだけ言って、亜紀は話を流してしまう。
遥は祈るように手を組み、呟いた。
「……もう髪を切るしかありません」
「髪?」
「お姉ちゃんちの子に言われたんです。
クリスマスプレゼントは髪を切ってあげたらいいよって」
やだ、かわいー、とみんな笑っているが、遥は切実だった。
「だって、ほんと、なにも思い浮かばないんですよ~」