好きになれとは言ってない
 顔を上げた航は言ってきた。

「遥、お前……」

 だが、言い終わらないうちに、いや、無理だ、と勝手に結論を出す。

「なんなんですか、課長っ。
 言ってくださいっ」
と言うと、航はかなり迷ったあとで言ってきた。

「お前、俺と……」

 俺と?

「俺と……」

 俺とっ!?

 更に身を乗り出してしまうが、航は続きが言えないようだった。

 すると後ろから声がした。

「俺と旅行に行けるか?」

 見ると、小宮がつり革を持って立っていた。

 航がぎょっとした顔で小宮を見る。

「友達の家に寄るんで、乗ってたんですけどー」
と一応、という感じで、淡々と此処に居る理由を航に述べる。

「今、笑い堪えるの苦労したよ」
と遥に文句を言ったあとで、

「この間から、課長。
 旅行会社を覗いてますよね。

 移動中に何度か見たんですけど。

 もしかして、クリスマス辺りで、遥ちゃんを旅行に誘おうと思ってました?」
と航に言ってきた。
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