好きになれとは言ってない
 



 ク、クリスマス・イブなのですが、明日……。

 課長からなんのお話もありません。

 昼休みのロビー。

 壁際に立つ遥は震える手で珈琲カップをつかんでいた。

 みんな楽しげにクリスマスの予定について話しているが、なにも耳に入ってこない。

 今、背を預けている壁のように、私の心は冷え切っています、と思っていると、雅美が振り向き、言ってきた。

「遥、このまま、課長がなにも言ってこなかったら、あんたもおいでよ。
 例のほら、オムライスの美味しい店に居るからさ」

「あ、ありがとう……」

 なにかその話が現実になりそうで、怖い、と思っていると、航が大葉たちとやってきた。

 女子の群れの中に遥の姿を見つけ、こちらに来る。

 みんなの方が身構え、課長のために、場所を空けた。

 ああ……また、十戒のように人波が割れている、と思いながら、遥はカップを握る手に力を込めた。
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