好きになれとは言ってない
通された広間では、航の母、千佐子たちが待っていた。
最初は、彼女らは来ない予定だったらしいのだが。
「遥さんをあのババアと二人にしたら可哀想」
と千佐子が言い出して、別のパーティに出かける前に顔を出してくれることになったようなのだが。
ありがとうございます、と感謝しながらも、
あ……あのババアって、どんなババアなんですか、と遥は思っていた。
千佐子曰く、
『悪いババアではない』そうなのだが、恐ろしいことには変わりないようだった。
既にカクテルグラスを手にしている千佐子が言う。
「ま、あんなババアだけど。
遥さんは孫の嫁だから、私に対するのとは、また違うと思うけどね」
お、お義母さま、頼みますね。
いや、普通、恋人の家族に紹介というときには、一番身構えるべき相手は姑なのだろうが、この家では違っていた。
今、この場では千佐子が最も信用できる気がする。
他の人間は、なんだかんだで、そのお祖母さまとは血続きの人間だ。
課長と真尋さんなんて、子どもの頃は、すごいお祖母ちゃんっ子だったって聞いたしな、と思い出す。