好きになれとは言ってない
「……いつか大きくなってしまうから。
 剥がさなかったんでしょうね」
と遥は微笑む。

 普段日が当たらない場所なせいか、色褪せずに、今も鮮やかなそのシールを見ていると、実際には見ていない自分でさえ、幼い航と真尋がそれを貼っている姿が鮮明に浮かんでくる。

 祖父母なら、尚更だろう。

 つるつるして冷たい手すりから手を滑らせ、そこだけ手触りの違う、その古いシールに遥は触れた。

「今は小生意気でも、このシール見たら、なんだか許せちゃいますよね」

 なにっ? と航がこちらを見る。

 だが、
「……俺たちが此処に泊まるとき使ってる部屋があるんだ。
 昔からなにも変わってない。

 あとで見てみるか」
と言い出した。

「え?
 いいんですか?」

「此処に連れてきたのは、子供の頃からの俺のすべてを知って欲しいと思ったからだ」

 階段途中の遥を見上げ、航は言ってくる。
< 467 / 479 >

この作品をシェア

pagetop