好きになれとは言ってない
「こんなイブになって申し訳ない。
 俺の自己満足から出たことだ」
と詫びてくるので、

「なんでですか。
 最高のクリスマスですよ。

 お酒は美味しいし、なにをリクエストしても、バーテンダーの人が作ってくれるし」

 しかも自宅でっ。

「ローストビーフもチキンもサラダも。
 あ、あのサラダのドレッシング、美味しかったです」
と今日のこの感激を伝えようと、一気に言ってしまうと、

「そっちか……」
と私は呟く。

 遥は少し迷ったあとで、思っていることを勇気を出して言ってみた。

「でも、今は二人きりじゃないですか」

 いや、二人きりとか、口に出すの、なんだか恥ずかしいんだが……と赤くなってしまったのがわかったらしく、一瞬の間のあと、航が吹き出した。

 あ、ひどい……と思い、俯いた遥の手すりをつかむ手に、航は、おのれの手を重ねてきた。

 そのまま、身を乗り出し、口づけてくる。

 離れたあと、真っ直ぐ自分を見つめて来た航を前に、遥の顔は緊張のあまり、強張ってしまう。

 こ、こんなときには、素敵な笑顔など浮かべてみたいのに。

 私を見上げている課長はこんなに格好いいのに。

 なんでこうなっちゃうんだろう、と自分で自分が情けなくなってしまった。
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