好きになれとは言ってない
 それと、と付け加える。

「……お父さんが結婚するまでは駄目だと言ったからだ」
と言ったあとで、赤くなる。

 いや、……やめてください、こっちが照れるから、と思っていると、航は遥から離れ、またパソコンを操作していた。

 照れ臭いのを誤摩化すように。

「ほら、見ろ。
 お前の好きなベテルギウスだ」

「は、はいっ」
と言いながら、望遠鏡を覗く。

「どうだ、見えたか?」

「み、見えません。
 ピントが合ってませんけどっ。

 それとも、さっき課長がおっしゃってたシーイングが悪いとかいうやつなんですかね?」

 そんなはず、と言いかけた航はこちらを見たようだった。

「ずっとぼやけてますっ」

「……そりゃ、お前が泣いてるからだ」
と少し笑って言う。

 少し待って、
「どうだ?
 見えたか?」
とまた、訊いてきた。

 早く見せて、此処から移動したいようにも思えた。
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