好きになれとは言ってない
そのうち、隆弘が来て、真尋も来た。
姉は夫そっちのけで、真尋の世話を焼き、隆弘は苦笑いして、父と航の酒に付き合っていた。
姉とダイニングの方に座っていた真尋がコタツの航に向かって言う。
「そうだ。
ねえ、お兄ちゃん、結婚祝いに食洗機買ってよ」
「待て。
お前、結婚するのか?」
と訊いた航に、
「違うよ。
結婚するのはお兄ちゃんだよ」
と言う。
「俺が初めてちゃんと恋した遥ちゃんをとっちゃってすみません、という詫びに食洗機買ってよ」
既に、かなり酔っているらしい姉が手を叩き、笑っていた。
陽気な人たちだ……。
義兄は既に諦めたような笑みを浮かべ、翔子の相手をしていたが、此処は此処で幸せそうな家族だった。
航が、
「……お前、次の女にも初めて恋したとか言い出さないか?」
と真尋に向かって言いながら、父親に酒をついでいた。
そして、運転すると言い出さないようにか、遥はいつの間にか、酒を吞まされていた。