好きになれとは言ってない
「新海くん。
 此処空いたから」

 笑顔で言われた航は、
「いえ、結構です。
 どうぞ、ごゆっくり」
と丁重に断る。

 部長はともかく、一緒に立ち上がった部下たちはまだ完全に食べ終わってはいなかったからだろう。

 さすが十戒の男。

 部長たちまで席を譲ってくれるのか。

 航は断ったが、結局、席を譲られ、航たちはそこに座った。

 遥は後ろの航を振り向き、
「課長。
 私、課長のコンパ係の人として、社内で名を馳せてしまっているんですが。

 あちことで声をかけられて、一躍人気者ですよ。

 こんなに携帯の番号とか教えてもらっちゃいましたし」

 最早、これが私の一番の仕事です、とおのれの携帯を見せると、大葉が笑う。

「じゃあ、もう人事部に異動させてもらったら?」

 だが、
「いや、いらん」
とすげなく航に断られてしまった。

 いいです……。
 別に貴方の居る人事になど行きたくないですから。

 ええ、ほんとに。
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