好きになれとは言ってない
今日は残業もないし、用事もない。
遥はいつもの電車に乗っていた。
居ないとわかっていて、なんとなく航の姿を探す。
段々電車も空いてきて、空いた席に腰を下ろした遥は、ぼんやり止まった駅の駅名を眺めていた。
……何処だったかな、真尋さんの店がある駅。
確か、降りたことのない駅だったが、覚えてないな。
大魔王様がいきなり降りろと言ってきたり、手を握ってきたり。
動転したせいか、大魔王様の言動以外の記憶があまりない。
そういえば、店の名前も……なんだったっけかな?
喫茶マヒロとか。
違うな。
サロン・ド・マヒロとか。
美容院か。
真尋さん、もっとセンスのいい名前つけそうだし。
そんなことを考えているうちに、自分の降りる駅に着いてしまった。