好きになれとは言ってない
「それは災難だったな」

「いえ、ありがとうございました。
 読み終わったので、返上致します」
ともう一度、突き出してみたのだが、航は、

「返上……?
 ああいや、もう読んだから、貰ってくれてもよかったんだが」
と言う。

「ええっ?
 それはありがたき幸せっ」
とうっかり言ってしまい、

「……お前、若い娘のわりに言葉遣いが時代錯誤だな。
 それだと、俺が、うむ。苦しゅうない、とか言わなきゃいけなくなるだろ」
と言われてしまった。

 それは貴方のせいですよ……。

 この人と話していると、つい、
 ははっ。
 大魔王様っ、とか言って、かしこまりそうになる。

 なんか緊張して、息苦しくなってきたな。

 逃げよう。

 此処から逃げ出そう、と遥は、
「そっ、それでは、失礼致しますっ」
と航からもらった本を手に、手と足を一緒に出すくらいのぎこちなさで、その場を立ち去った。





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