泥棒じゃありません!
プロローグ
多分もうすぐ私は、人生の終わりを迎える。
明日の予定はどうだったっけ。
私がいなくなれば、今一番困るのは広報の佐々野(ささの)さんだ。ちゃんとすべて、申し送りできていただろうか。
こんな結末になるなら、せめて今着手している仕事が一段落するまで待てばよかった。完成した実物を手にしてみんなと歓喜したかったし、世間の反応だって知りたかった。
そんなことを考えている間にも、額には尋常じゃないほどの冷や汗が浮き上がってくる。
本当は今なにかを考える余裕など、これっぽっちもない。ただこうして無理やりにでも絞り出していなければ、恐怖で気を失ってしまいそうだからだ。
いくら勢いで行動しがちな私といえども、こうなることをまったく想定していなかったわけじゃない。でも「大丈夫でしょ」と、どこかで妙な自信があったのだ。
数十分前の私に言いたい。そのわけのわからない自信は今すぐ捨てろ、然もなくばとんでもないことになるぞ、と。
持ち前の“見通しの甘さ”が、ここでも遺憾なく発揮されてしまった。
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