泥棒じゃありません!
ふと、『見通しが甘いんだよ』と私に指摘した人物のことがまた、頭に思い浮かんだ。
忘れもしない、あれは入社一年目の頃。当時新人の私を指導してくれていた人物が、そう言って必死に練り上げた私の企画書をばっさりと切り捨てた。
その時はむかつきもしたが、振り返ってみればそう言われても仕方がないほど穴だらけの企画書だった。
もうしばらく会ってはいないけれど、その人のことは今では尊敬している。が、きっとどこかでばったり会ったなら逃げ出したくなるぐらいには苦手な人物でもある。
……どうやら、見つかってしまったらしい。
トン、トン、トン。
死神の足音が、扉を隔ててすぐのところで止まった。
もう、覚悟を決めるしかない。
私は息を殺したまま、じっと扉が開くのを見つめていた。