泥棒じゃありません!
罪状2:強要罪
四月に入り、会社は新年度を迎えた。
気持ちも新たに頑張ろう、といった前向きな空気が社内に流れる中、私だけはみんなのそれとは違う感情を噛みしめていた。
ありがとう、アミロ! ありがとう、当たり前の日常!
両手を広げて、そう大声で叫びたい気分だ。
普通に仕事ができるということが、こんなにもありがたいものだとは思ってもみなかった。
私はどちらかと言えば仕事が好きなほうだけれど、それでも日によっては会社に行きたくなかったり、つらい時は辞めたいと思ったりすることもある。
それがいかに贅沢なことだったのか。こういう状況になって初めて気づかされる。
不法侵入という罪を犯したあの日、蓮見さんは私を警察に突き出す代わりに、私に条件を突きつけた。
その条件とは、蓮見さんの家の片づけと掃除をすること。
蓮見さんは苦手な人ではあるけれど、そこを我慢すればとんでもなく簡単な条件で前科一犯にならずに済んだのだから、一番にありがとうと言わなければいけないのは蓮見さんに対してなのかもしれない。
しかし、今でもまだ信じられない。前の家の新しい住人が、蓮見さんだったなんて。
私はやっぱり悪運が強いんじゃないだろうか。奇跡とも言える偶然にただただ手を合わせたくなる。
でもどうして、蓮見さんは日本にいたのだろうか。
結局、肝心な部分を本人に聞きそびれてしまった。彼が異動するという話はどこからも聞こえてこなかった気がするのに。