泥棒じゃありません!
罪状1:住居侵入罪
窓を開けると、眼下には向かいのマンションの駐車場。その脇の道路を、子供たちが賑やかに駆け抜けていく。
一カ月ほど前までいた場所とはなにもかもが違うんだと、ふと、こういう時に感じる。
そこはどちらかと言えば地上よりも空が近くて、晴れの日も雨の日も、私はそこから空を眺めるのが好きだった。
そしてもうひとり。その景色を一緒に眺めていた人物が、いた。
まだしっくりこない1Kのこの部屋には、いくつかの段ボールが引っ越し業者が置いていったとおりに積み上がったままだ。すぐに使うものは荷解きして片づけたけれど、一カ月経ってもまだすべてを片づける力までは湧いてこない。
「どうして、こうなっちゃったんだろ……」
ため息をこぼしながら片づけ途中だった本を数冊手に取ると、隙間に挟まっていたのか、なにかがポトリと床に落ちた。
“芦澤美緒里様”
封筒の表には、少し崩れた字でそう書かれている。
「……これ、持ってきちゃってたんだ」
前の家を引き払う前日、先に新しい彼女のところへと転がり込んでいた元カレ、下山秀樹から、メールやLINEではなくこれが家に届いた。
最後の最後だから感謝の手紙でも送ってきたのかと思えば、私と合わないところや私の欠点などが、いかにも女の人が使いそうな便箋二枚に渡って書かれていた。
まるで、心変りしたのは当然の流れだったと、自分を正当化するように。
「……忌々しい」
もちろん秀樹が言うように、私には至らない部分が山ほどあったと思う。秀樹と別れてから、自分なりにではあるけれど、たくさん反省もした。
でも……私だけが悪かったんだろうか。