泥棒じゃありません!
秀樹は他部署ではあるけれど、同じ会社の人間で同期だということもあり、やりづらさを考えて周囲には付き合っていることを隠していた。
一緒に暮らしていた期間は二年、付き合い始めたのはその半年前だから、合計二年半の間私たちは一緒にいた。
同棲までしているのだし、多分このままずっと秀樹と一緒にいることになるんだろうな、と恋愛経験の少ない私は甘く考えていた。
でも現実は、そんなに甘くはなかった。
「好きな人ができた」と秀樹から告げられたのは、約三カ月前。年末の忙しいさなかだった。
「本気なんだ」と言われてしまった場合どう返すのが正解だったのか、今でもわからない。
浮気なら感情にまかせて、罵詈雑言まくし立てることもできたかもしれないけれど、私は「そうなんだ」と返すのが精いっぱいで、それ以上なにも言えなかった。
『というわけで俺がこの先、美緒里とヨリを戻すことはないと断言する。変な期待をされても困るから、一応俺の気持ちを送っておく』
読むつもりなんてなかったのに、開いた瞬間その一文が目に入って気分が悪くなる。
「期待なんかしてないっちゅーの……!」
秀樹が出ていった直後は毎日涙に暮れていたけれど、この手紙を読んで一気に冷めた。もう一滴たりとも涙は流れてこない。
「馬鹿にすんなっ!!」
ビリリ、と紙を引き裂く音が部屋中に響き渡る。思ったより気持ちがいい。
二枚を四枚、四枚を八枚と紙を細かく破いていき、さらにギュウギュウ固く丸めてゴミ箱へと叩き入れてやった。あースッキリした。
でもこれで秀樹とのことが完全に終わったわけではないから嫌になる。
「持ってきたのがこっちじゃなくて、あの写真だったらよかったのに……」
そう。私の重大なミスによって、まだ心からスッキリしたとは言えないのだ。