先輩!小説の主人公になってください!
「彩月はさ、好きな人とかいるの?」
私は意を決して聞いてみた。
「急にどうしたの?そんなこと聞いて?あっ‥もしかして、咲和先輩の影響とか?ありえるわー。」
なぜか彩月は一人で納得した。
「ち‥違うよ!私はただ、気になっただけ。彩月には好きな人とかいるのかなって‥。」
「いないよ。好きな人なんて。」
彩月の顔を見るとさっきまでの笑顔がなかった。
「私には好きな人なんていない。作りたいとも思わないしね。」
「彩月‥。」
「‥でも、気になってる人はいるよ。まだ、好きじゃないけど‥。」
ゴホッ!!ゴホッ!!!
意外な言葉に食べていた物が気管に入ってむせてしまった。
「ちょ‥ちょっと、大丈夫!!?今日のあんた、変だよ!?」
彩月が私の背中をさすりながら言う。
うー、苦しい‥。
「き‥気になってる人て‥誰なの?」
「それは‥内緒、だよ!友達でも、まだ教えられないなー。」
いたずらぽく言って結局、彩月は教えてくれなかった。
でも‥彩月の気になる人が大和先輩でないことを願わずにはいられなかった。
だって‥大和先輩には凛ちゃんがいるし‥彩月には辛い思いなんかしてほしくない‥。
なんといっても、私にとって彩月は大事な友達だから‥。
そして、放課後になった。
部室には私と彩月、大和先輩しかいなかった。
「あの‥柊人先輩と咲和先輩は、どうしたんですか?」
私はだいたいいつも参加している先輩逹がいないことに疑問を感じて大和先輩に聞いた。
「ああ、咲和先輩と柊人先輩はゼミがあるから遅くなるらしいよ。」
「そうなんですか‥。」
柊人先輩に会えないことが少し寂しくも感じた。
「今日は3人だけど、部活始めようか。今日は文学について話し合いたいと思います!」
「はい!!」
私と彩月は元気よく返事をした。
「文学といえば、彩月、何か思い浮かぶ?」
大和先輩はこういう時、本当に生き生きとしているなと思う。
「え‥えーと‥夏目漱石の“吾輩は猫である“ぐらいしか、分からないです。すみません。」
彩月は申し訳なさそうに謝った。
「いいよいいよ。気にしないで。じゃあ次、伊織!」
「はい!私は夏目漱石の坊っちゃんや樋口一葉の竹くらべ、芥川龍之介の羅生門などを知っています!!」
得意分野だけに勢いよく答える。こんなに答えるとは思っていなかったのか大和先輩はびっくりした表情を浮かべていた。
「伊織、すごいな。こんなに知ってると思わなかったよー。」
「文学は私の得意分野なので。私、文学小説はほとんど読みましたね。大和先輩はどんな文学作品を知ってるんですか?」
私も誉められたことに気をよくし話を進めた。
「俺は、夏目漱石の三四郎とかあと‥川端康成の伊豆の踊子とか知ってるかなー。」
「あっ!伊豆の踊子知ってます!!私、伊豆の踊子の舞台に足を運んだことがあります!」
「マジか!?俺も行ったことあるんだよ、伊豆の踊子の舞台!あの景色、今でも忘れられないよなー。」
文学作品について今まで、話せる人がいなかったので、こうやって話ができることはとても嬉しかった。
そして、嬉しさのあまりテンションもあがってしまった。
テンションが上がりすぎて回りが見えなくなった。だから、彩月のことまでは考えることができなかった。