先輩!小説の主人公になってください!
一人、残され呆然としていた私の目からは涙が溢れた。
あの2人の関係性をこんな形で知ってしまったから‥。
ショックだった。
そして私は‥認めたくないけど‥失恋してしまった。
もっと‥早く気持ちに気づくべきだったのかもしれない。
そうすれば、もっと結末は変わってたかもしれない。
その時だった‥
「あれ?彩月?」
呼ばれた声に振り向くとそこには同じ文芸部の柊人先輩がいた。
「し‥柊人‥先輩。」
私は先輩に背を向け慌てて涙を拭いた。
だが、それを柊人先輩は逃さなかった。
「どうした?なんで泣いてるの?何かあったのか?」
「いえ。なんでもないです。失礼します。」
そう言って私はその場を立ち去ろうとした。‥が
「大和が彩月のこと心配してる!」
「!!」
私は思わず立ち止まってしまった。
「大和、本当に悪いことしたって反省してる。」
「それは部長として、そう思ってるだけでしょう!?」
自分でもびっくりするぐらいのきつい口調になってしまった。
「あの人、部のことしか考えてないじゃないですか!人の気持ちなんて何にも分かってない!!」
まただ。また‥八つ当たりをしてしまった‥。
「彩月。本当にどうした?なんで、そんなに感情的になってるんだ?」
「別に、感情的になんかなってません。‥それにしても先輩からそんなこと言われるとは思いませんでしたよ。」
私はさすがの先輩でも怒るだろうなてことを言った。
「普段、何もしないのにわさわざ言うなんて。それは、大和先輩のためですか?それとも伊織のためですか?」
そう言うとわずかに柊人先輩の瞳が揺れた。
「‥違う。誰のためでもない。誰かが傷ついているのをほっとけないだけ。現に彩月も何かに傷ついてる‥。」
柊人先輩の瞳は私のことを見すかしているように感じた。
「‥私、そろそろ行かなければならないので失礼します。」
そう言って私は柊人先輩から逃げ出した。
私は柊人先輩のことが少し苦手だ。
何を考えてるのかわからない。それに伊織が柊人先輩のどこにひかれて好きだ!て言ってるのも分からない。
そう考えながら私はもと来た道を戻り始めた。
今日は授業を休むことにする。
1回ぐらい休んだってバチなんか当たらない。
そう思って歩いていると、廊下にて同じ学部で友達の須川愛莉と出会った。
「あっ、彩月。今から暇?」
愛莉はいきなりそんなことを聞いてきた。
「うん。暇だよ。」
私は涙の跡がバレないか心配だったが愛莉は気づいてなさそうでホッとした。
「あのさ、今、学校に献血が来てるんだけど一緒に行かない?一人で行くのは少し不安だからさ‥どうかな?」
「うん。いいよ。」
自分でもびっくりするほどの答えが自分の口から飛び出した。
いつもならこんな簡単にyesなんて言わないのに‥
「やった!ありがとう彩月!じゃあ、行こう!参加するとジュースとか貰えるらしいから!」
そう言う愛莉に手をひかれ私は献血へと向かった。
伊織side
私は今、部室にいる。
私だけじゃない、咲和先輩も柊人先輩もいる。
なぜなら、部長である大和先輩からの招集がかかったからである。
「みんな、集まってくれてありがとうございます。招集したのは、他でもない彩月のことについてです。」
そこで大和先輩はいったん口を閉じた。
そして、口を開いた。
「既読無視するとはどういうことでしょうか?えぇ?こんなに送ってるのに既読無視するとはどういうことかなー?俺、気になるなぁー。」
顔は笑顔なのに口調はいつもと違ってきつく感じる。
すると咲和先輩が小さな声で私に聞こえるように言った。
「あー。大和くん、これは本気で怒ってるね。大和くん寛大な心の持ち主だからめったなことでは怒らないけど、これは怒ってるね。めずらしく。」
私も大和先輩から少なからずの怒りを感じ取った。
「大和。どうどう。落ち着いて。」
見ると、柊人先輩が大和先輩を落ち着かせるように言っていた。
しゅ‥柊人先輩、それは怒りを煽るだけでは‥?
「ここで、みんなにお願いがあります。彩月をつかまえてください。俺、一人じゃどうしようもなくて‥。」
「大和くん、本気?つかまえてどうするの?」
すると大和先輩はかすかに微笑んだ。
「安心してください。俺は彩月を責めたり、怒鳴ったりしないですよ。話をするだけですから。」
「‥わかった。彩月を見つけて来るよ。もちろん、大和くんも探しなよ。ほら、伊織も柊人も探しに行くよ。学内は広いからねー。」
そう言って咲和先輩は私と柊人先輩をつれて学内を探し始めた。
これから彩月を探す旅が始まる。
まぁ‥旅というものでもないけどね。