先輩!小説の主人公になってください!


「俺と執事の松村さんと出会ったのは俺が小学校1年の時。俺は話すのが苦手で友達 が出来なかった。
‥そんな時に俺の元に来てくれたんだ。
松村さんは当時高校1年生で史上最年少で執事になった、とても優秀な人だったんだ。」


私は静かに先輩の話に耳をかたむけた。


「小さい頃から英才教育を受けて、俺の担当になって‥本当は遊びたくて仕方なかっただろうに文句言わずに俺と向き合ってくれて。‥俺の家は両親も忙しくてろくに構ってくれなかったから、松村さんと俺だけが一緒にいた。」


そこまで言って、また柊人先輩の目から涙が溢れだした。


「友達のいなかった俺にいろいろアドバイスくれたり、俺のために図書館作ってくれて‥それに‥バスケットも教えてくれた‥。本の楽しさやバスケットの楽しさを教えてくれたのに‥俺は‥大切なもので松村さんを傷つけてしまった。」


「‥どういうことですか?」


私は思わず聞いてしまった。


「中・高と俺はバスケ部に入った。活躍したいと思って入った部活だったのに‥。高校2年の時、初めてレギュラーをもらって嬉しかった。やっと俺の才能を認めてもらえたって。だけど‥違ったんだ。その頃から‥俺の父親が顧問にお金を渡して裏で繋がってるていう噂が流れ始めたんだ。だから‥俺はレギュラーになれたんじゃないかって。」


「そんな‥」



「俺は‥悔しくて‥悔しくて‥松村さんにあたった。知ってたなら教えてほしかったのに‥。なのに教えてくれなかったから。だから‥俺は‥松村さんに、もうお前なんか必要ない!て言ったんだ。だから‥次の日には‥もういなくなってた。」


いったん、柊人先輩は言葉を切ってまた続けた。


「俺を支えてくれた人なのに‥俺、なんにも‥ありがとうも言えなかった。部活もやめて‥また‥俺は一人になって‥。」



涙で後が続かなくなってしまった。



「ごめん。‥て言いたい。何も返せなくてごめんって。自業自得だけど‥こんなの‥ずるいけど‥謝りたい‥。ずっと思ってる。部活やめた時から。‥この図書室に来ると‥辛くて‥苦しくて‥もう‥一人になるのは嫌だから‥だから‥大学もずっと‥一人でいた。もう、傷つきたくないんだよ。」


「柊人先輩、もういいですよ!!」


私はたまらず後ろから柊人先輩を抱きしめた。



「もう‥これ以上、言わなくていいですよ。辛い思いさせてごめんなさい。」


私の目からも涙がこぼれ落ち、柊人先輩の肩に落ちた。


「‥っ‥なんで‥伊織まで泣くんだよ‥。俺は、大事な人を傷つけた最低最悪の人間なんだよ‥。こんなどうしようもない奴に同情してどうするんだよ。」


「先輩はどうしようもない奴なんかじゃないです!自分がやったことを後悔して‥今まで苦しんできて‥自分でもどうしたらいいか分からなかったんじゃないですか?」


「‥‥‥‥。」



「‥誰かに助けを求めてたんじゃないですか?‥ずっと、一人で‥全部、抱え込んで苦しかったはずです。もう‥苦しまなくていいんですよ柊人先輩。誰にも言えなかったこと、私が全部、受け止めますから。全部、吐いちゃってください。」



苦しんでいる柊人先輩を見るのは、とてもつらい‥。


私にできることがあればしてあげたい。



「‥なんで‥なんで‥こんなにも俺のことを気にかけてくれるの?」


「ほっとけないからです。先輩がつらそうにしてると私もつらいです。それに‥先輩には笑顔でいてほしいから。ずっと‥笑っててほしい。」


「変な奴。‥ほんと大和といい‥伊織といい、文芸部には変な奴ばかりだ‥」


柊人先輩は少し笑ってくれた。


「彩月にもよく言われますよ。変人だって。柊人先輩に言われなくても分かってるんですからね。」


そこまで言ったとき、抱きしめていた私の手を柊人先輩がつかんだ。


「先輩?」



「ありがとう‥伊織。‥俺、笑顔でいられるようになるよ。だけどさ‥今日は‥泣いていい?こんな‥大の大人が泣くなんてどうかしてるけど。」


「いいですよ。今日は先輩のこと全部、受け止めますて言いましたから。好きなだけ吐いてください。」


そう言うと先輩は泣き始めた。



それも私の腕を掴みながら。
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