先輩!小説の主人公になってください!
大和先輩も自分の寝顔を初めて見て意外にも気に入ってしまったようだった。
「大和先輩!あの寝顔、LINEのアイコンにしてもいいですか?」
彩月がそう言うと大和先輩は飲んでいた味噌汁を盛大に吐き出してしまった。
「ゲホっ!だ‥駄目にきまってるだろ!さすがに彩月のお願いでも駄目だからな!」
「冗談ですよ。真に受けないでください。」
この子、本当に恐ろしい子だなーて思うよ。
「あっ‥そうだ。さっき、冷蔵庫みたらほとんど食材がなかったんだけど、昼ごはんどうするの柊人?」
咲和先輩が柊人先輩に話をふる。
「じゃあ俺、昼ごはんの材料買ってくるよ。あと‥もう一人‥伊織ついてきてくれる?」
ゴホッゴホッ!!
今度は私がむせる番だった。
「え‥わ‥私ですか?」
「そう。伊織ついてきてよ。俺が行くといらないものまで買っちゃうし‥。」
「わ‥分かりました。」
「じゃあ‥柊人先輩と伊織が買い物に行ってる間に文化祭について決められるところまで決めておきますね。」
「了解。」
最後はさすがは部長らしく大和先輩が締めた。
朝ごはんの後、私と柊人先輩は一緒に買い出しに出かけた。
「悪いな。付き合ってもらって。」
「いえ。大丈夫です。」
昨日、柊人先輩の涙を見て私はどういう風に先輩と接したらいいのか分からなくなっていた。
「伊織、今日の昼ごはん何がいい?みんなはなんでもいいて言ってたけど‥。」
「私も何でもいいですよ。先輩は?」
「俺はサーロインステーキ。」
「えぇっ!!?」
私は驚きのあまり柊人先輩の顔を見てしまう。
すると本人はほぼ無表情で‥
「冗談。」
という始末。
「先輩‥。その表情でこの冗談はきついですよー。先輩、言うなら笑いましょう。」
私は先輩にアドバイスをする。
「どうやって?」
「えーっと‥ですね‥ほら、口角をあげて‥」
「こう?」
そう言うと先輩は口角をあげるどころか、顎をつきだしてきた。
これは‥どう見てもしゃくれてる‥フッ‥
「アハハハハハ!!!先輩‥顎‥しゃくれてます‥アハハ!はーお腹が痛い‥。」
私は思わず笑ってしまった。
「やっと笑ってくれた。」
「えっ!?」
見ると先輩は笑っていた。
「‥昨日‥俺が泣いたから‥引いてたんじゃないかって心配してた。」
「そんなこと‥ないです。ただ、私あんなこと言って何もしてあげられなかったから、それが‥気になってて‥」
「そんなことない。伊織がいてくれたから、前を向いて歩こうて思えるようになった。‥それでさ‥村松さんに会って話をしてみようと思う。」
私はそこで歩くのをやめて先輩を見た。
「ずっと、話すことから逃げてきたけどもう逃げないことにした。自分が納得するまで話してみようと思う。俺の気持ちとか全部。それに‥父とも。あの話は噂にしかすぎないから自分で真実を聞いて見るよ。」
その先輩の顔は何かを吹っ切れたかのように明るかった。
「だから、乗り越えられるように今日はサーロインステーキにする!」
そう言ってまた、顎を突き出す。
フッ‥駄目だ‥完全に私のツボだ‥
「‥っ‥先輩‥分かりましたから‥その‥顎をつきだすのを‥やめてください。」
私は必死に笑いをこらえる。