不安の滓
 『それ』の始まりは、本当に些細なことだった。

 冷蔵庫の中に入れてあったはずのビールが一本消えていたり、そのツマミにと思って入れてあったはずのカマボコが無くなっていたり。
 妻に聞いても「知らないわよ」と答えられるばかり。
 ならば、自分の勘違いだったのかな、と思いながら別のツマミを取り出して食べる。

 この家に住むのは俺と妻だけだ。
 子供も居ないし、俺の記憶にあっても妻がそれを使った覚えが無いというのならば最初から存在していなかった可能性は高い。

 自分ではビールを冷やしておいたつもりでも冷蔵庫に入れてなかったり、あると思っていたカマボコだって他の物と見間違えていたのだろう――その程度に考えていた。
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