不安の滓
「あのさ――」

 言いかけてから、ふとテーブルの上に置かれているものが視界に入り、声が止まった。
 それは――件のライターだった。

 何者かによって、盗まれてしまったはずのライターが……なぜここにあるのか?

「こ、これ……?」

 妻は振り返りもせずに、「ああ、それ、探してたんでしょ?」と小声で答える。
 探していたのには違いないが、どういう経緯でこのライターが出てきたのだ?

「ど、どこにあった?」

 妻は振り返ることもなく、片手に包丁を握ったまま、片手を上に挙げて天井を指差した。
< 23 / 66 >

この作品をシェア

pagetop