不安の滓
「お祝いしなくちゃね!」
 ベッドの上で寝たままの私に母が嬉しそうに話しかけてくる。
「心臓を移植したばかりだから、先生に聞いてからになるけど……何か食べたいものはある?」
 そうか……私は心臓移植の手術を受けて、それで入院していたのだった。
 母の言葉で、ようやく自分が置かれている状況を思い出した。
 母の質問に答えるべく、自分の食べたいものを母に伝える。
 食べることが出来るがどうか分からないが、自分の好きな食べ物を思い浮かべる。
 頭の中に、食べたい物の候補がいくつか思い浮かぶ。
 その中で、私は一番食べたい物の名前を母に告げた。

「私……ステーキが食べたいな……」



―― 『白い部屋』 了 ――
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