不安の滓
 都会のド真ん中にバーを構えている。
 カウンターのみの小さな店だ。
 それなりの種類の酒と、それなりの種類のツマミを提供する。
 店内はBGMをかけていない。
 何かの音楽をかけると店のカラーというものが自ずと決まってしまうし、カウンターの内側には小さなラジオもあるのだが電源はオフにしたままだ。
 いつもこの店は静かで、聴こえるのは客の話し声とグラスを傾ける音だけだ。

 六人が座れば満席になる店内、今日はカウンターに二人の男が座っていた。
 一人は眼鏡を掛けた中年、もう一人は少し髪の長い二十代中盤の若者である。
 別々に来店した二人、面識も無いようである。
 最初は二人とも無言のままで自分の酒を静かに飲んでいた。
 しかし、バーテンである私を仲介しての会話に始まり、いつしか男たちは互いに会話を交わしながら飲むようになっていた。
 はしゃぐわけでも無く、静かに、会話をツマミとして二人は飲み続ける。
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