不安の滓
「それじゃあ、お勘定をお願いします」
 私との話もキリが見えず、それまで話し相手であった眼鏡の男性も寝てしまっている。
 若者の心の内は、店を出るという結論に至ったようである。
「ありがとうございました……」
 店を出て行く若者の後姿を見送りつつ、内心で少し反省する。
 客に話すような内容では無かったな……と。
(しかし……)
 それでも私は思う、『怖いのは人間だ――』と。

 何せ、人が一人死んでいるというのに犯人は捕まっていないのだ。
 警察は犯人が誰ということはおろか、犯行の方法ですら分かっていないようである。
 街中で知り合った、ナンパされただけの男とバーに行き、相手に睡眠薬入りの酒を飲ませた。
 酔って眠りかけた男をトイレに誘った。
 トイレの中で、抵抗出来ない男の首筋をサバイバルナイフで切り裂いた。
 その一撃で死亡した男を――満足行くまで解体した。
 後は、トイレで男の血糊を拭き取り、着替えて街の雑踏に紛れただけだ。
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