不安の滓
『あららららー』
『何だか』
『無事に着いてしまいそうやねー』

 助かる、その可能性に気が付いたのか。
 ラジオの中から聞こえる声が残念そうにそう呟く。

 少しだけ余裕を持てた男が、視線をカーナビにチラっと移すと、画面の中に映る同僚の表情は悔しそうなものになっている。

(思い通りにはさせるものか――)

 同僚は男を道連れにするつもりだったのだろう。
 その為に、カーブの多い道で男の車を事故に遭わせようとしていたのだ。

 しかし、そんな道連れになる気など男には毛頭ない、同僚の誘いを何とか振り切り、無事に家までたどり着いたのだ。

 男の視界に、家の横に立つ杉の木が見えてきた。
 後は――あの木にぶつかるだけである。
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