不安の滓
「いえね、安心してたんですよ」

 『安心』とは奇妙な言葉である。
 仮にも、誰かの家族が死亡して、こうやって荼毘に付されているのだ。このように、興味本位で係員に質問した私が言えることではないが――不謹慎なのではないだろうか?

 そう思う私に気が付いたのか、係員はボツボツと言葉を続けた。

「たまにね、火葬炉の中から叫び声やら、何か引っ掻くような音が聞こえるんですよ。そうなると『生き返っちゃったのかな?』とね。火葬炉の扉にも、内側にはいっぱい傷があるんですよ……親族の方には見せれるものじゃないですけどね」

 そこまで言って、係員は火葬炉から離れて行った。

 その様子をツバをゴクリと飲み込みながら見送る私――誰も居なくなった火葬炉の前。

 火葬炉の扉を『ドンドン』とノックするような音が響いた。


―― 『火葬場』 了 ――
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