宮野さんはいつも困ってる
椛島の件は誠おじさんが教師には箝口令を引いてくれたものの、マスコミが連日報道してたから、みんな知ってる。
しかも、ただ誘拐されただけじゃなくて、なにされてたかネットで話題になってるし。

「あれなら来賓席から見学すればいい。
それも嫌なら、保健室で寝ててもいいぞ」

「……ありがとう、ござい、ます」

やっぱり曖昧に笑って返す。
なにが正解なのかなんて、最近の私にはわからない。
そんな私に杉本先生は苦しそうに顔を歪めた。

隣のクラスもホームルームが終わったのが、がやがやと人が出てき始めた。
その中に、明石くんを見つけたけれど。

「あ、明石、くん。
……ひさしぶり」

「……」

話しかけてみたけど、視線を逸らされた。
ずきん、一瞬痛んだ胸。

「本、もう少し貸しててね。
まだ読み終わらなくて」

「……いいよ。
あれ、宮野にあげる。
じゃあ」

いつもと違う、突き放す冷たい声。
一度も目を合わせることなく行ってしまった明石くんに、私はただ立ち尽くしていた。
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