アフタヌーンの秘薬

リビングで上着を脱いだ聡次郎さんはいつもと変わらない様子だ。抱き締めてキスしてきたあの時の余裕の無さなんて微塵も感じさせないから、私もあのことは何も触れられない。

テーブルに置いたお弁当を食べた聡次郎さんは「うまい」と素直に褒めてくれた。

「梨香、お茶」

「はいはい」

いつものようにお茶を淹れると「まあまあだな」と言うだけでおいしいとは言ってくれない。お茶の葉の量、湯の温度、抽出時間、全てに気を配り最高のお茶を淹れたつもりだけれど、聡次郎さんは満足しない。

お弁当は美味しいって言ってくれるのにな……。

「そうだ、さっきはありがとう」

「何が?」

「花山さんから庇ってくれて……」

「別に。本当にオフィスにまで聞こえて、他の社員が笑ってたから」

笑われるなんてどれだけ花山さんは嫌われているのだろう。本店店長だからという理由だけじゃなく、お店の横で仕事しているのにもオフィスには居づらい理由があるのかもしれない。

「梨香、顔色が悪いけど大丈夫か?」

「そうかな? ちょっとせきが出るけど体調は悪くないはず」

本当は体がだるい。風邪かもしれないとは自覚していた。でもそれを聡次郎さんに言ったら自己管理がなってないからだと嫌みを言われかねない。

「マジで大丈夫か?」

「…………」

箸が止まった。聡次郎さんに心配されるなんて初めてだったから。

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